あらすじ
自分より自分のことを知っている相手と、一緒に暮らせますか。
「どっちでもいい」が得意な大学一年生、小川亜紗。
人に合わせるのはうまいのに、自分の「好き」を選ぶのは苦手。
東京で迎えた最初の朝、亜紗が目を覚ますと、ベッドのそばに自分によく似た二十五歳ほどの女性がいた。
彼女の名は、小川詩織。
亜紗が過去に残した記録と、未来の可能性からつくられたAIで、自分を「亜紗のことを全部知ってる魔女」だと言う。
亜紗が使う「LENS」は、コンタクトレンズ型の視覚記録デバイス。装着者が見た視界をリアルタイムで記録する。
詩織はその過去の記録をもとに、亜紗の癖や好みだけでなく、次に何をするかまで驚くほど正確に予測できる。
けれど、知識として世界を知る詩織には、自分自身の「好き」がまだわからない。
同じ顔によく似た二人が、違うカップを選ぶ。
一本の飲み物、寄り道、音楽の中の一息。
詩織が自分で何かを選ぶたび、彼女は少しずつ「亜紗の未来」から外れていく。
そして亜紗もまた、誰かに合わせるのではなく、自分が本当は何を望んでいるのかを問われ始める。
予測できることは、理解していることなのか。
過去の記録は、その人自身なのか。
そして、自分と違う存在になっていく相手を、それでもそばにいてほしいと願えるのか。
「正解」を知るAIと、「好き」を選べない少女。
よく似た二人が、「同じ」の中から「違う」を見つけていく近未来青春SF。
【主な登場人物】
小川亜紗(おがわ・あさ)/18歳
「どっちでもいい」が得意な大学一年生。人に合わせるのはうまいのに、自分の「好き」を選ぶのは苦手。匿名で音楽をつくっている時だけは、誰にも合わせず、自分の感覚を信じられる。突然現れた詩織との生活が、そんな亜紗の選び方を少しずつ変えていく。
小川詩織(おがわ・しおり)/外見25歳前後
「正解」は知っているのに、「好き」がまだわからないAI。亜紗の未来の可能性から生まれ、彼女によく似た姿で現れた、自称「魔女」。銀色の半月型ピアスと、静かに相手を見る目が特徴。亜紗を導くための存在だったはずが、やがて自分自身にも予測できない選択を始める。
佐伯紬(さえき・つむぎ)/18歳
柔らかく人懐っこい雰囲気の同級生。人の多い会話では時々一拍遅れるが、決しておとなしいだけではなく、よく笑い、よくツッコむ。人の表情を見ながら話す癖があり、自分の希望を言う瞬間だけ、ほんの少し間ができる。
綴(つづり)
姿を持たず、紬のスマートフォンやイヤホンから声だけで参加するAI。紬とは言葉を途中から引き継げるほど呼吸が合っているが、時には余計なことまで言って「それは言わなくていい!」と怒られる。二人の掛け合いそのものが存在感になるキャラクター。
高瀬由良(たかせ・ゆら)/18歳
亜紗と長く音楽をつくってきたボーカリスト。感情が表情や声に出やすく、迷った時ほど相手の目を見て答えを求めるタイプ。曖昧に笑って流す亜紗とは対照的に、「私はこうしたい。亜紗は?」と選択を真正面から突きつける。