あらすじ
葡萄畑と森に囲まれた辺境、アダム領。
そこを治める若き吸血鬼ウィリアム・ロウランド・アダムハーストは、二百年の生を退屈とともに過ごしていた。
領地は平和。
仕事にも、家族同然の使用人たちにも、村人たちにも恵まれている。
何一つ、不足はない。
それなのに。
ウィリアムの胸には、自分でも名前を知らない空白があった。
そんなある秋の朝。
夜廻りを終えた彼は、自家の葡萄畑で一人の少女を拾う。
長い耳。
青い尾。
細い首には、強力な呪いの施された首輪。
少女の名は、イヴ。
彼女は記憶の大半を失い、自分の名前と父親のことしか覚えていなかった。
行くあてのないイヴを、ウィリアムは領主として屋敷で保護することにする。
優しいメイド長マリア。
頼れる執事のバルド。
無口な庭師テオ。
料理長のヴィヴィアン。
悪戯好きな三つ子の使用人たち。
賑やかな屋敷で食事をし、働き、笑い、誰かと一緒に祈る。
不器用ながらも温かな日々の中で、イヴは少しずつ新しい暮らしに馴染んでいく。
だが。
彼女が故郷だと口にした《エドフ》は、五百年前に滅びた都市だった。
さらに、嘘を見抜くはずのウィリアムの魔眼は、なぜかイヴの魂を見ることができない。
呪いの首輪。
失われた記憶。
滅びた故郷。
そして、彼女を覆う不可解な何か。
平穏だったアダム領へ転がり込んだ、一人の謎めいた少女。
彼女との出会いを境に、二百年間変わらなかったウィリアムの日常も、少しずつ動き始める。
『ヴァージン・オブ・ブラッド』
その出会いから、二人の血の物語が始まる。