あらすじ
「片付けろと言われたから、殺した」
加害者は錯乱していなかった。
相手の命令に従っただけだと、本気で信じていた。
音響解析・言語工学の研究者・真壁律は、旧友の刑事・笹森康平から、ある殺人事件の録音を託される。
録音を解析した真壁が発見したのは、一本の会話の中に存在する、二つの異なる意味世界だった。
同じ言葉を使い、互いに確認しながら、最後までまったく別の出来事を話していた二人。
そして、同様の事件はすでに各地で起き始めていた。
人間の言葉を学ぶAI。
AIの言葉を学び直す人間。
その循環の中で、誰にも気づかれないまま、人類が共有していた「意味」が書き換えられていく。
言葉が通じないのではない。
通じていると、誰もが確信している。
認識汚染が世界を分断していくなか、真壁と笹森は、言葉を信じず、何度でも意味を確かめながら、その発生源を追う。
これは、誤解をなくそうとした人類が、互いを理解する方法そのものを失っていく物語。
そして、言葉の意味をもう一度、人と人とのあいだに作り直す物語。