あらすじ
【全32話・9月23日完結予定/毎日21時更新】
家賃三万八千円。四畳半、風呂なし、壁は紙。
大学二年の春、長谷川陸の隣の部屋に、女の子が引っ越してきた。
分厚い黒縁眼鏡。目が隠れる前髪。新歓コンパでたった一人、本を読んでいた地味な同級生。
その夜から、壁の向こうで声がするようになった。
毎晩、午前一時。甘い女の声と、低い男の声。同じ台詞を、何度も、少しずつ抑揚を変えて。
四日目の夜、限界を迎えた陸が壁を殴る。
直後、ドアを叩いたのは──眼鏡を外した、街の全員が振り返る顔だった。
「私と、共犯者になってくれませんか」
冬木詩乃。ペンネーム、スノードロップ。
総PV三千二百万、七月に書籍化を控えた恋愛小説家。そして、恋愛経験ゼロ。
書けないのは、男の限界だけだった。
取材の対価は、毎晩の夕食。
陸が差し出せるのは、自分の情けなさだけだった。
やがて七月十日。彼女の本が、全国の書店に積まれる日が来る。
その本の奥付のどこにも、俺の名前はない。