あらすじ
キューバ・ビニャーレスを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
三十一歳の日本人女性・エリは、十二日間の一人旅でキューバ西部のビニャーレスを訪れる。東京では店舗空間のディスプレイ設計をしているが、自分が提案したものを「売れる形」に直され続け、好きだった仕事を好きだと言えなくなっていた。
宿に着いた翌朝、エリは庭の向こうにそびえる奇妙な丸い山をスケッチしている。そこへ、隣家から柵越しに洗濯物を取りに来た青年マテオが現れ、「その山、一個足りない」と言う。
彼は観光ガイドではない。近くの家や農場を修繕して回る三十三歳の大工だった。
その日の夕方、宿の主人から頼まれた小さな用事をきっかけに、エリはマテオと赤土の道を歩くことになる。彼が教えるのは観光地ではなく、自分が毎日通る道だった。
やがて二人の間に生まれるのは、「夕方になったら三つ目のモゴーテまで歩いて戻る」という習慣。
恋愛を怖がるのではなく、二人とも相手に近づき続ける。ただし、エリは東京へ戻る人生を当然だと思い、マテオはビニャーレスから離れない人生を当然だと思っている。
問題は、好きになることではない。
好きになったあと、二人の人生をどう置くかだった。