あらすじ
「西岬の灯を消して。あれは船を港ではなく、岩礁へ呼んでいます」
「女に港は任せられない。出ていけ、リーゼ。二度は言わない」
「船を出せば、救えるのか」
先代港務長の娘リーゼは、父の晩年、潮見も入港指示もひとりで書いていた。だが父の死後、港湾評議会が選んだのは王都帰りの従兄。彼女は生まれ育った灯台を追われ、漁師の帳簿をつけて暮らしている。
王女殿下の婚礼船を迎える霧の夜、閉鎖されたはずの西岬の灯台に、港とまったく同じ拍子の灯がともる。従兄が手柄を立てるために仕組んだ「救出劇」だった。けれど彼が使ったのは、防波堤が延びる前の古い訓練図。今の潮では、救難艇が着く前に船は岩礁へ流される。
港の命令は出ない。それでも若い巡視艇の船長エリクは、リーゼの言葉ひとつで船を出す。
霧の海で、リーゼは婚礼船と岩礁のあいだに船を入れ、非常信号を掲げた。陸の灯を信ずるな、我に続け――。
港務長の正規の書状と、正反対の信号。どちらを信じるかを決めたのは、船首で角灯を掲げた王女自身だった。
「わたくしは、海へ出てきたほうを選びました」
これは、港に捨てられた女が、港ではなく海の上の人々のために戻り、本物の灯をともすまでの物語。