あらすじ
東京のブラック企業で働く青年・綾円尾(あやまるお)。
彼には、仕事も営業トークも特に取り柄がない。
ただ一つだけ――土下座が異常に上手かった。
ある日、同僚がとんでもないミスをやらかし、会社に取引先から猛烈なクレームが入る。
社長、部長、同僚、そして当事者。
全員で必死に謝罪するも、先方は激怒。
「謝って済む問題ではない!」
絶体絶命の空気の中、綾円尾が静かに立ち上がる。
「……僕に任せてください」
そして――土下座。
ただの土下座ではない。
床につく膝。
伸び切った背筋。
完璧な頭の角度。
一切の無駄がない動作。
まるで長年の修行を積んだ達人のような、究極の土下座だった。
「申し訳ございませんでした!」
その迫力に、先方は困惑する。
「いや、そこまでしなくても……」
しかし綾円尾は止まらない。
怒られれば土下座。
疑われれば土下座。
話がこじれれば土下座。
なぜか土下座するたびに事態は好転していく。
いつしか社内では、彼に仕事を頼むときの合言葉が生まれていた。
「綾円尾を呼べ。……土下座の時間だ」
果たして彼の土下座は、会社を救えるのか。
そして、なぜ彼はそこまで土下座にこだわるのか。
これは、土下座という誰でもできる行為を極限まで極めてしまった男の、壮絶でくだらない戦いの物語である。