あらすじ
貧乏貴族ベルク家の次男、ノア・ベルク。
家督も財産もない彼は、成人後の働き口を探していた。
そんなノアが見つけたのは、ルヴェリア王国の後宮に仕える「宮務官」。
かつての宦官制度に代わり、人権に配慮して作られた国家公務員制度だ。
採用条件は、男性であること、身元が保証されていること、女性を恋愛対象としないこと、そして、後宮勤務に適した人物であること。
官舎あり、食事あり、安定した給与。
しかも――年金制度がある!
男性が好きなノアにとって、まさに理想の職場だった。
面接では、学園時代に憧れていた先輩騎士への想いを「忘れられない恋」として熱弁し、見事採用。
しかし入職初日に感動したのは、後宮の華やかさではない。
「この国の福利厚生、素晴らしい!」
配属先は第五公妃・アイリス宮。
政治的には目立たない、いわゆる「外れ」の宮だった。
穏やかで働きやすい職場に大満足のノア。
ただし、彼には一つだけ問題がある。
――恋人が欲しい。
騎士に一目惚れしては身辺調査で撃沈し、ようやくできた恋人も後宮の派閥争いに巻き込まれる。
さらに、面接で語った「初恋」の噂を聞いた王太子からも、なぜか気に入られてしまう。
「ノア、恋人は出来たか?」
「殿下、部下のプライベートに踏み込むのは、パワハラです」
本人は権力にも派閥にも興味がない。
年金と恋人を求めて、今日も真面目に働くだけ。
けれど本人の知らないところで、ノアの存在は少しずつ後宮の勢力図を動かし始めていた。
一番政治から遠いはずの男が、なぜか後宮政治の中心へ。
これは、安定した職場を求めて後宮に就職した青年が、知らず知らずのうちに人々の心と政治を動かしていく物語。
【今後の展開】
後宮の政治闘争が激しくなる中、ノアは第二公妃や第四公妃とも交流を深めていく。
本人には政治的な意図などまったくない。だが、その結果として第一・第三公妃以外の宮が結びつき、第五公妃・アイリスの立場は、思いもよらぬほど大きくなっていく。
一方、ノアを利用しようとしていた第三公妃派のセオドアとの関係も変化していく。
ノアから向けられる無条件の信頼と、「ノアを籠絡せよ」と下された命令。その間で、セオドアは苦悩する。
さらに、一度はノアの恋人となったヴァルターも、第一公妃派から政治的に利用され、ノアとの復縁を迫られる。
ノアとヴァルターは、恋愛を政治に利用される苦しさを共有することになる。
政治とは無縁のつもりだったノアは、本人の望みとは裏腹に、後宮の勢力図を大きく動かす存在になっていく。
【登場人物】
◆ ノア・ベルク
主人公。貧乏貴族の次男。
金銭感覚が庶民的で、裏表がない。
騎士学校に通うが騎士の試験に落ち、コネもないため、宮務官になる。
安定した生活を望み、待遇や将来の保障を何より重視する現実主義者。
◆ 王太子 レオンハルト・ルヴェリア
将来の国王。政治能力が高い。
第一・第三公妃の対立を調整している。
自分を王太子ではなく「上司」として扱う彼を面白がる。
◆ 第五公妃 アイリス
穏やかで聡明。政治的野望はない。
ノアの恋愛相談に付き合う。
神殿の第二公妃と仲がいい。
◆ ノアの同僚 カイル・ロッシュ
護衛騎士の恋人エドガーがいる。
ノアへのツッコミ担当。
◆ ノアの同僚 フィン・ローウェル
王宮料理人の恋人マルクがいる。
食事情担当。
◆ ノアの同僚 セドリック・ヴァン
第三公妃派の大臣の愛人。
政治情報に詳しい。
恋愛事情にも慣れている。
◆ アレクシス・ヴァルド
騎士。ノアの学園時代の憧れの先輩。
面接で語られた「忘れられない恋」の相手。
しかし本人は「……君、だれ?」状態。
恋愛対象は女性のため、ノアを弟分のように気にかける。
◆ セオドア・グラン
第三公妃派の文官。
第三公妃の父である公爵の子飼い。
後宮への連絡役。
冷静で有能。人を見る目が鋭い。
第五公妃を第三公妃側につけるために奔走中。
◆ ヴァルター
騎士。第一公妃派の貴族出身。
アレクシスがノアに紹介する。
世界観
【ルヴェリア王国】
西洋風ファンタジー国家。
現在の王の治世は安泰。
次代を担う王太子が後宮を管理している。
国王に即位するときに、後宮にいる公妃の中から王妃が選ばれる。
【宮務官制度】
人権に配慮し、旧来の宦官制度に代わって作られた国家公務員制度。
男性が後宮に仕えるための制度であり、身体的な処置ではなく、本人の適性と身元確認によって採用される。
恋人がいる者がほとんどで、むしろ身元が明確になるため歓迎される。
ノアだけが、「恋愛経験ほぼなし」で珍しがられる。
【後宮の五つの宮】
◆ ローズ宮(第一公妃)
色:赤
王家に近い勢力。王妃の第一候補。
政治的影響力が強い。
◆ 月影宮(第二公妃)
色:青銀
神殿から迎えられた特別な公妃。
唯一、花の名前ではなく月の名を持つ。
後宮とは別系統の存在。
王族との間に恋愛関係はない。
国家安寧を祈る象徴。
◆ リリー宮(第三公妃)
色:白
国内名門貴族出身。大きな政治力を持つ。
王妃候補。
第一公妃に勝つために、第五公妃を自陣につけようとしている。
◆ カトレア宮(第四公妃)
色:オレンジ
外交のため迎えられた公妃。
近隣国との関係維持の象徴。
◆ アイリス宮(第五公妃)
色:紫
貴族の力関係に配慮して迎えられた妃。政治的には弱い宮。
しかし穏やかで、人間関係が良い。
ノアにとっては、「最高の職場」になる。