あらすじ
「この三年、一度も君を愛したことはない」
夜会の最中、伯爵の夫から離婚を突きつけられたヴェレナは、婚礼衣装の裾に縫われた金糸をほどいた。
「私とあなたは、三年前から結婚していません」
衣装に縫い込まれた誓いが、人の暮らしを縛る国。その婚礼衣装には、妻の手と仕事を守る条項が欠けていた。誰にも知られず夫の衣装を繕い、不完全な誓いまで支えてきた三年間を終え、彼女は自分の名で働くため、王都の小さな直し屋へ身を寄せる。
布に触れれば、隠された傷みや魔力の流れがわかる。けれど、その腕を証明する資格も、推薦してくれる職人もいない。仲間とともに一着ずつ仕事を重ねる彼女のもとへ、やがて奇妙な依頼が舞い込んだ。
相手は、強すぎる魔力で上等な礼装さえ焼いてしまう王弟ライナルト。誰より強い彼が望んだのは、人のそばで過ごせる、ごく普通の一着だった。
採寸のために隔てた十二歩が、仮縫いを重ねるたびに近づいてゆく。自分の仕事に値段をつけられなかった女は、彼のために針を持つうち、仕事の終わったあとも隣にいたいと願うようになる。
愛されなかった三年の先で、自分の手と、新しい恋を取り戻す。小さな直し屋から始まる、魔導衣装師のお仕事と恋の物語。