あらすじ
『色盲』
残暑に聴く蝉の声はより一層の暑さを感じることがある。9月頭。月が変わり季節が秋へと衣替えをする時期、夏の湿気が雲で乾ききらずなんだか暗い印象を与える。初夏を迎えた頃はようやくかと待ちくたびれたものが到来してこの五感で感じ取れるもの全てに喜びを感じていた。それも日に日に落ち着いて鬱陶しく感じられるようになった。
いつからだろうか、モノクロのフィルターがかかっているように世界に色を失いつつあるのは。いくらアクションを起こしてもひとつとして心を動かすことはなかった。
何かを成し遂げなんでもできるように思えた華やいだ気持ちも、挫折し視界が黒く染まって何も見えなくなる気持ちも。何もかもに色がついていた景色は全て歪に統一された灰色に支配された。
楽しかったものは退屈なものになり、退屈なものは関心すら示せなくなってしまった。休めばなんとかなる。疲れているだけ。そんな言葉を言い聞かせてみても、自分の言葉が自分を追い込んでいることにはいつでも気づけない。
何も考えるなと思えば思うほど何かを考え、焦るなと思えば思うほど焦燥に駆られる。
その灰色のループには身体を何故か委ねてしまう。
極端なものにもそれ以外のものにもなれない中間なものに何処かで心地よく思っているのだろうか。
灰色の世界でも光や影は感じることができる。無意識の内に身を置いたこの不透明なシェルターにはこれ以上傷つくことのない安心感を覚えたからなのだろうか。
色を失った歪な世界で唯一の違和感として前進も後退もしない中間で生ぬるい安らぎを覚えたことで抜け出すことをはなから諦めていたのだろう。
9月初週。蝉たちは未だ色のない世界で鳴いていた。