あらすじ
生涯を拳法の修練に捧げてきた老人、榊玄斎。
仙闘流と呼ばれる拳法を極めるため、ただひたすら強さを追い求めてきた。
だが七十八歳となった今、ともに拳を交えた者たちは引退するか、すでにこの世を去っている。
弟子もいない。道場もない。
ようやく辿り着きつつある境地を試す相手さえ、もういなかった。
そんなある日、隣人の少年リクが何者かに誘拐される。
泣き崩れる母親を前に、玄斎は一人、少年を取り戻すため動き出す。
ナイフ。
拳銃。
大勢の悪党。
老いた身体を酷使しながら、それでも玄斎は拳を振るう。
そして彼自身、気づいてしまう。
――楽しい。
人を救うための戦いでありながら、生涯磨き続けた技を存分に振るえることを、心のどこかで喜んでいる自分に。
やがて玄斎の前に立ちはだかるのは、かつてリングで人を死なせた元ヘビー級ボクサー。
強さを求め続けた二人の男が、少年の目の前で激突する。
これは、一人の老人が生涯最後に振るった拳と。
そのすべてを、黙って見ていた少年の物語。