あらすじ
日が沈む頃、店を開ける。
日が昇る前に、店を閉める。
ある王国の町の片隅に、夜だけ営業する一軒の酒場がある。
店主は吸血鬼。
だから朝は寝ているし、昼も寝ている。
彼女にとって夜に働くことは、別に特別なことじゃない。
日が沈めば看板を出し、灯りをつけ、酒を並べる。
そうしているうちに、今夜も誰かが扉を開ける。
仕事帰りの警備兵。
旅の途中の冒険者。
夜勤明けの職人。
酔いつぶれたい男。
誰かに話を聞いてほしい女。
素性を明かさない旅人。
そして、何十年も通い続ける常連客。
客は歳を取り、町も少しずつ姿を変える。
それでも店主は変わらない。
昔、若者だった常連が老人になっても。
その老人の息子が同じ席に座るようになっても。
店主は酒を注いて、話を聞く。
ときには喧嘩を止め、
ときには相談に乗り、
ときには何も聞かずに一杯だけ出す。
世界を救うような話は、たぶん滅多にない。
ここにあるのは、夜の酒場を訪れる人々の、ほんの一晩の話。
日没開店、日の出閉店。
今夜も、営業中。