あらすじ

五百年前、人類は一度、大きく文明を失った。  かつて人々は今より遥かに高度な技術を持ち、魔法とも科学ともつかない力を使っていたらしい。しかし、その時代に何が起きたのかを伝える記録だけが、不自然なほど世界から失われている。  現在の人々は馬車で街を行き交い、職人が道具を作り、魔法と薬を暮らしに役立てながら生活している。その一方で、森や荒野には旧文明の遺跡が残り、用途さえ分からない遺物が当たり前のように掘り出されていた。  そんな世界の、とある街の近く。  森の中で薬を作って暮らしている一人の薬師がいる。  森に住み、薬草を煮て、時々妙な色の液体を鍋いっぱいに作っているせいで、街の人々からはすっかり「森の魔女」あるいは「魔女さん」と呼ばれているが、本人としてはあくまで普通の薬師のつもりである。  体力はない。戦うのも得意ではない。危険な遺跡へ好き好んで入りたいとも思っていない。  それなのに、街の人々は何か妙なことが起きるたびに、 「魔女さんなら何とかしてくれる」  と言って彼女のところへやってくる。  井戸の水が突然甘くなった。  見たことのない植物が畑に生えた。  古い遺物が勝手に動き出した。  森から変な音がする。  そんな一見すると小さな依頼を、薬や知識、魔法、そして少しばかりの好奇心を使って調べていくうちに、彼女は少しずつ、この世界が忘れてしまったものへ触れていく。  街の中央にそびえる、由来すら分からない巨大な樹。  西方に広がる旧文明の遺跡群。  東の彼方に存在する、誰一人として内部へ入れない巨大なドーム。  各地に残された奇妙な設備や、今も動き続ける古代の装置。  そして、五百年前を境にぷつりと途切れた人類の記録。  それらは、本当にただ残されていただけなのだろうか。  そもそも五百年前、人類は何を失ったのか。  なぜ、そのことだけを誰も覚えていないのか。  本人は今日も静かに薬を作って暮らしたいだけなのに、世界の忘れものはどういうわけか、次々と彼女の前へ転がり込んでくる。  これは、戦士でも英雄でもない森の薬師が、人々から「魔女さん」と呼ばれながら、日々の小さな面倒事を片づけ、そのついでに少しずつ世界の秘密を拾い集めていく物語。  ――もっとも本人としては、世界の謎より、まず今日の仕事を終わらせたいのである。

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カクヨム
カクヨム2026/08/18
  • 現在の作品魔女さんと、世界の忘れもの