あらすじ

沖縄でローカルアイドル「与那覇リリー」として活動する比留間凛々子は、三年たっても自分だけの居場所を見つけられずにいた。笑顔でステージに立ち、ホテルのレストランで働く毎日。仲間には華やかな仕事が舞い込み、自分には「もう一つ何かが足りない」と言われる。そんな夏、また仕事を投げ出した幼なじみの内野大河が、凛々子が倒れたと聞いて東京から沖縄へやって来る。帰る金も計画もないまま、ただ心配だったという理由だけで。 凛々子に叱られ、沖縄の町をさまよった大河は、人の縁に導かれて小さな塗装会社に住み込みで働き始める。逃げ癖のある彼を、社長夫婦や仲間たちは叱り、食べさせ、見守る。一方の凛々子も、舞台とは勝手の違うラジオ生中継で失敗を重ねながら、用意された「リリー」ではない、自分の言葉を探してゆく。 冷たい視線を武器にするアイドル・村雨蒼の内側には、故郷石垣島の民謡を歌いたい宮良青海がいる。気品に満ちた真紀子は、家柄と名前が周囲を動かしてしまう息苦しさを抱えている。誰もが華やかな仮面の下に、かなわなかった夢や、逃げたい現実や、言葉にできない寂しさを隠していた。表舞台では交わらなかった彼女たちも、失敗や秘密を知るうち、互いを競争相手ではなく、一人の人間として見つめ始める。 那覇の市場、モノレール、スーパーの店内、建設現場、民謡酒場、冬の海。観光地の光だけではない沖縄の日常の中で、根を持たない者たちが出会い、働き、食卓を囲み、少しずつ本当の顔を見せてゆく。人の手で海を渡り、沖縄に根づいたハイビスカスのように。 支えるばかりが愛ではない。励ますだけが優しさでもない。前を歩く者、立ち止まる者、遠回りする者が、互いの人生に残す小さな力。これは、何者かになれなかった人々が、誰かとの縁によって今もう一度、自分の名前で生き直そうとする物語。恋愛になる少し手前の温度と、沖縄の風のような人情を描く、現代の群像劇。

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カクヨム
カクヨム2026/08/17
  • 現在の作品ハイビスカスは振り向かない