あらすじ

猛暑が続く最上階のアパートで、岸淳一は業務用の冷凍ストッカーを動かしながら暮らしている。ストッカーの中には、八日前に死んだ寝たきりの弟・誠が入っていた。電気代を払えず、日中のエアコンを切って出かけた岸は、帰宅後、室温四十度を超える部屋で息絶えた弟を見つけた。救急にも警察にも通報できなかったのは、自分の行為に「殺した」「見殺しにした」といった名前が与えられるのが怖かったからだった。  腐敗の兆しが現れると、岸は工場から譲り受けた冷凍ストッカーに遺体を移す。隠すためではない。ただ、弟の死を終わらせることも、自分の責任を認めることもできず、日々を先送りにしていた。だが、冷凍ストッカーを稼働させると契約アンペアの不足でエアコンは使えない。岸は図書館や銭湯へ逃げ、灼熱の部屋ではストッカーのモーター音だけを聞き続ける。  ある夜、訪問介護の途絶えを不審に思った刑事・高梨が、一人で岸の部屋を訪ねてくる。岸は弟が施設に入ったと嘘をつくが、施設名を答えられず、高梨は静かに真相へ近づいていく。それでも高梨はすぐには暴かず、麦茶を飲み、世間話を重ねる。岸にとっては、誰かの声があるあいだだけ、ストッカーの唸りと罪悪感が耳から遠のく時間だった。  やがて湿ったタオルが落ち、閉まりきらないストッカーの扉が開く。漏れ出す冷気と匂いのなか、高梨は岸が「話して楽になりたい」のではなく、ただ終わりを先延ばしにしているだけだと見抜く。電気の停止期限も迫るなか、岸はついにエアコンをつける。ブレーカーが落ち、ストッカーは止まる。主幹を上げた岸は、ストッカーの回路だけを切った。冷房の風が部屋を満たし、解けた水が畳へ広がっていく。  高梨が帰ろうとしたとき、岸は初めて自ら通報の番号を押す。冷たい風を背に受けながら、岸はようやく「楽になった」と思うのだった。

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エブリスタ
エブリスタ2026/08/17
  • 現在の作品熱帯夜の冷凍庫