あらすじ
城壁と断崖の街・ハイブンには、ひとつの噂がある。
――教会の鐘が鳴った夜、悪党が消える。
正体不明の捕縛屋《福音》。その正体は、孤児たちにスープを振る舞う寡黙な神父、ルーカス・ヴァルカレオンだった。
凍える冬、彼は自分と同じ名を持つ貴族の青年、ルーカス・ライトヴェルトと出会う。
「俺がルークで、お前がルー。ちょうどいい」
明るくお節介で、誰よりハイブンを愛するルーク。貧しい者へ薪を配り、行き場を失った悪党に仕事を与える彼の善意は、多くの人々を救っていく。
やがて人々は、彼を《火種》と呼び始めた。
しかし、一人を暖めるために灯した小さな火は、救いを求める人々の熱狂と憎しみを薪に、ルーク自身の手を離れて燃え広がっていく。
そしてついに、愛したハイブンまでもが炎に包まれる。
雪降る夜、燃える城壁。
街の悪を捕らえる《福音》と、街を救おうとした《火種》。
かつて友だった二人は、それぞれの信念を背負って向かい合う。
「告解はあるか?」
「ねえよ、兄弟」
これは、凍える街を暖めたかった男と、その火を止めなければならなかった友の物語。