あらすじ
妻はずっと、俺のことを甲斐性なしだと思っていた。
妻の目に映る俺は、田舎で豚を育て、精肉店を営んでいるだけの貧乏な男。結婚して八年も経つのに、彼女を青凪市で暮らさせてやることすらできない夫だった。
そんな俺は、冷たい雨が降りしきる夜、妻が別の男の膝に座っているところを目撃した。しかも、三年間わが子だと信じて育ててきた息子まで、俺の子ではなかった。
それだけでは終わらなかった。
秘密を知られた妻と義母は、俺を石油ストーブによる一酸化炭素中毒で事故死したように見せかけようとした。
その夜、俺は十年間一度もかけなかった番号を押した。
「蓮、迎えに来てくれ」
電話の向こうが、長い沈黙に包まれた。
俺は目を閉じた。
「もう逃げない」
翌日、数台の黒い高級車が月守町へ入ってきた。
妻は知らなかった。
自分が散々見下してきた田舎の精肉店主こそ、御堂家を捨てて十年ものあいだ帰らなかった、本来の後継者だということを。