あらすじ
「古い楽器を直すしか能のない地味女は、王都一のサロンの顔にはできない」
伯爵令嬢エリゼーヌは、大勢の客の前で婚約者ベルトランから婚約を破棄され、華やかな歌声を持つ妹リゼアに居場所を奪われた。
彼女が三年間、家伝の十七台の楽器を無償で修復し、音楽サロンを陰から支えてきた事実ごと踏みにじられて。
家を出たエリゼーヌが次に任されたのは、壊れて音を失った王女の竪琴だった。
古い調弦ピン、傾いた響板、奏者の手に合わない弦。
失敗と試奏を重ねながら竪琴を蘇らせた彼女は、その技術を正式に認められ、王立楽団の修復師となる。
そんな彼女の仕事を最も厳しく見つめていたのは、戦時の爆音による耳鳴りと音過敏を抱え、「音楽嫌い」と呼ばれる宰相公爵オクターヴだった。
「選べない音が嫌いだ」
甘い慰めを口にしない彼は、予算にも修復方法にも容赦なく疑問をぶつけてくる。
けれど、エリゼーヌの判断を奪わない。
聞けない日は無理をせず、それでも音のない修復室へ彼女を訪ねてくる。
一方、修理に必要な弦と膠の費用を、婚礼の舞台幕と艶出し剤へ回したベルトランたちは、式の前日になって十七台の楽器がまともに鳴らないことに気づく。
そしてエリゼーヌへ、「家族なのだから無料で徹夜して直せ」と迫ってきた。
安全に間に合わせられるのは、処置と再確認を通した六台だけ。
それでも妹と元婚約者は、見栄のために十七台すべてを舞台へ並べることを選び――。
「私が安全だと認められない楽器なら、一音だって奏でて差し上げません」
警告を無視して始まった婚礼演奏。
その九小節目、最初の音が崩れ始める。
無償奉仕を捨てた職人令嬢が、仕事も誇りも恋も手に入れる、王道お仕事ざまぁ×不器用な宰相公爵の溺愛恋愛ファンタジー。
「君の音だけは一生そばで聴きたい」
仕事を愛する彼女へ捧げられるのは、人生ごと寄り添う求婚でした。