あらすじ
北海道・中標津。標津岳から吹き下ろす風だけが訪れる、小さなギター工房「七尾工房」。
飄々として掴みどころのない職人・七尾拓哉。言葉少なに木と向き合う後輩・あーちゃん。そして東京の広告代理店を辞め、この地に流れ着いた見習いの橋本歩――アユム。三人と一匹の猫が紡ぐ、朝の読書とコーヒー、コンマ単位の精度との格闘、そして手渡されていく本の物語は、今日も変わらず続いていくはずだった。
ある日、工房に一本の電話が入る。世界的なアコースティックギタリスト、フェルディナンド・シルバが、ツアーの合間にこの工房を訪れるという。彼が長年愛用する名器は、実は七尾さんと、亡き親友・伊吹が遺した設計図から生まれたものだった。
工房の奥に隠されていた、もう一本の試作機。
その音に心を奪われたフェルディナンドからの申し出を、七尾さんはきっぱりと断る。
「これはまだ、未完成なんだ」
かくして始まる、亡き友の設計図と向き合う挑戦。世界的な注目、SNSでの拡散、そして押し寄せる変化の波。それでも三人が守り続けるのは、朝のコーヒーと本の匂いに満ちた、いつもと変わらない工房の時間だった。
静かな北の町から、世界へ。
変わらないことの強さを描く、手仕事と絆の物語、第三部。