あらすじ
『ただいまへ続く線路』あらすじ
2004年春、兵庫県宝塚市で暮らす坂田家。鉄道の安全装置を研究する技術者・坂田尚幸は、妻・紗栄子、息子・建二、娘・芙美子と穏やかな日常を送っていた。家族旅行、学校生活、星空を見上げる夜、何気ない食卓。尚幸はその一方で、福知山線の安全対策に強い関心を持ち、速度照査機能を備えた新型ATSの早期導入が必要だと考えていた。
しかし2005年4月25日、尚幸は通勤途中に福知山線脱線事故に巻き込まれ、帰らぬ人となる。
突然夫を失った紗栄子、父を失った建二と芙美子の生活は一変する。建二は魂が抜けたようになり、芙美子は言葉を失い、大好きだった電車の絵さえ描けなくなる。遺族説明会、事故調査、日勤教育や企業風土をめぐる問題、司法の壁。紗栄子は悲しみと怒りを抱えながら、「なぜ事故は防げなかったのか」を問い続ける。
そんな中、尚幸が残したノートと図面が見つかる。
「人は必ず間違える。だから、間違えても命を失わない仕組みが必要だ」
その言葉は、残された家族の人生を少しずつ変えていく。
建二は父の遺志を継ぎ、鉄道の保安装置を研究する技術者を目指す。芙美子もまた、父が愛した電車を再び信じようとし、車両整備の道へ進む。紗栄子は講演活動を始め、事故が奪った日常と、安全の大切さを社会へ語り続ける。
やがて成長した建二は父と同じ分野で安全システムを研究し、芙美子は車両整備の現場で若手を率いる技術者となる。それぞれ愛する人と家庭を築きながらも、2人の胸には父の願いが生き続けていた。
事故によって失われた命は戻らない。
それでも、残された人は生きていく。
そして、悲しみを未来の安全へ変えていくことはできる。
『ただいまへ続く線路』は、実際に起きた福知山線脱線事故を背景に、1人の技術者とその家族の喪失、再生、そして「安全とは何か」を問い続ける長編ヒューマンドラマである。
すべての「行ってきます」が、無事に「ただいま」へ続くために。