あらすじ

樋の落ち口は、さらう順を決めておいたほうがよろしいのです。十四年、そう申しあげてまいりました。 伯爵館の雨樋を見るのはわたくしでした。屋根の傾きと木立の向きで落ち葉の溜まり方が変わり、落ち口ごとに詰まる速さが違います。風の続いた週は西側から先に、客を招く前は玄関側を最後へ回す。壁に留められるのは今月の順だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。 けれど手当の話になるたび、家令はこう申します。「樋など誰の仕事でもない。手が空いた者がやればいい」。十四年、後でと言われ続けております。 さらう順を書いた紙は剥がされ、廊下の柱には落ち口の数と人数が貼り出されました。「落ち葉など、上から掻き出せばよい」。左様でございますね。 では、さらい順の控えをお返しいたします。掻き棒も梯子も、壊しも持ち出しもいたしません。 夏のあいだは何も起きません。乾いた樋には掻き出す葉すらないのですから。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 冬の長雨、風の続いた週に北の落ち口が溢れ、壁が黒く濡びました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。 自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/17
  • 現在の作品「用済みだ、誰の仕事でもない」と言われたので、さらう順の控えを置いて館を出ます。冬の長雨の朝です