あらすじ
むかしむかし、あるところに――転生者がいました。
ただし、転生したのは桃太郎ではない。
鬼だった。
現代日本で死んだ青年は、神から固有スキル《返礼》を与えられ、異世界の鬼として生まれ変わった。
それから十六年。
畑を耕し、魚を獲り、家族や仲間たちと平和に暮らしていた彼の住む島へ、ある日突然、一人の少年が攻め込んでくる。
犬、猿、雉を従えたその少年は、刀を抜いて高らかに名乗った。
「悪い鬼を退治しに来た! この桃太郎が成敗する!」
その瞬間、転生者はようやく知る。
ここが――鬼ヶ島だったことを。
だが、おかしい。
鬼たちは人間の村など襲っていない。
財宝も奪っていない。
それなのに桃太郎は、自分たちを「退治すべき悪」と信じ切っている。
ならば、やられる理由などない。
昔話では桃太郎が鬼を倒す?
そんなことは知ったことか。
殴られたものを相手へ返す《返礼》を武器に、鬼の転生者は仲間たちを守るため桃太郎へ立ち向かう。
そしてこの世界では――
鬼が、桃太郎を倒す。
だが、これは一つの昔話にすぎない。
別の場所では、竜宮城の名もなき住人に転生した者が、浦島太郎が玉手箱を開ける未来を変える。
竹取物語では、本来かぐや姫に振り回されるはずだった求婚者に転生した男が、与えられた難題を本当に攻略してしまう。
一寸法師に倒されるはずの鬼。
復讐されて死ぬはずの猿。
物語では「意地悪」とだけ語られた老人。
誰かを助けるためだけに存在していた脇役。
誰も名前すら覚えていない端役。
これは、英雄たちの物語ではない。
昔話の裏側で、最初から負けることを決められていた者たちの物語。
彼らの人生へ、本来存在しなかった現代日本人が転生し、それぞれ一つの固有スキルを手にしたとき――誰もが知っている昔話の「史実」は、少しずつ狂い始める。
桃太郎が負ける。
浦島太郎が老人にならない。
かぐや姫が月へ帰らない。
猿が復讐から生き延びる。
一寸法師が打ち出の小槌を手に入れない。
けれど、本当に恐ろしいのはそこからだ。
昔話には書かれていない。
「めでたし、めでたし」が消えた後の世界が、どうなるのかは。
転生者というたった一人の異物によって、知っているはずの物語が、誰も知らない物語へ変わっていく。
昔話×異世界転生×固有スキル。
悪役、脇役、被害者、モブ――。
毎回まったく違う人物へ転生し、毎回まったく違う昔話をひっくり返す異世界転生オムニバス。
むかしむかしの物語は、もう、あなたの知っている結末にはならない。