あらすじ
高校二年生の藤原翠は、クラスでは目立たず、誰とも深く関わろうとしない少年だった。
小学生の頃、両親が離婚。父親に引き取られた翠は、ほどなく再婚した父と継母、腹違いの妹と暮らしている。しかし父親から疎まれ、家では「必要なこと以外は喋るな」と言われ、いつしか声を出すことすら怖くなっていた。
そんな翠には、誰にも知られていないもう一つの顔がある。
放課後、誰も使わない空き教室で一人、歌を録音し、匿名でインターネットに配信する「SUI」。顔も本名も明かしていないにもかかわらず、歌声は多くのリスナーの心を掴み、ついには音楽関係者からデビューの誘いまで届いていた。
翠の夢は、歌で生きていくこと。
けれど、その夢を父親に知られるわけにはいかなかった。
ある日、いつものように空き教室で歌っていた翠の前に、クラスの厄介者として知られる不良・神崎蓮が現れる。秘密を知られた翠は必死に口止めを頼むが、蓮は意外な言葉を口にする。
「俺、SUIのファンだから」
実は蓮は、以前から翠の歌を聴いていたのだ。
誰にも自分の本当の姿を見せられなかった翠と、周囲から問題児と決めつけられていた蓮。正反対に見える二人は、互いに人には言えない孤独を抱えていた。
やがて二人の周りには、異なる悩みを抱える仲間たちが集まり始める。
友情、家族、進路、そして夢。
仲間と出会い、誰かと笑い、ぶつかり、支え合う中で、翠は少しずつ変わっていく。
「家族に逆らえない」
「夢なんて叶うはずがない」
そう思い込んでいた少年が、初めて自分自身の声で叫ぶ。
――僕は、歌いたい。
これは、声を奪われた少年が、大切な仲間たちと出会い、傷つきながらも自分の人生を選び取っていく、青春と友情の物語。