あらすじ
理由もなく学校をサボり、無気力な日々を送る高校生・万田知哉(まんだともや)。
彼はある雨上がりの夜、ふと立ち寄った古い廃屋で、インバネスコートに身を包む不思議な少女に出会う。
「私、とっても忘れっぽいので」
『蛍(ほたる)』と名付けたその少女は、どこかポンコツで、生意気で、昨日食べた夕飯すら都合よく忘れてしまう。
しかし、彼女には残酷な秘密があった。
誰かからの「助けて」という手紙を受け取ると、彼女は奇跡を起こす。そしてその絶対的な代償として――彼女自身の『記憶』を失っていたのだ。
日常の些細な奇跡なら、読んだ本の内容を忘れることで代用できる。
だが、命に関わるような大きな奇跡を起こせば、大切な思い出や、関わった人との絆すらも消え去ってしまう。彼女の世界は、記憶から抜け落ちた「見知らぬ他人」ばかりだった。
なぜ彼女は、過酷な使命を背負ってまで奇跡を起こすのか。
なぜ彼女は、過去のすべてを捨ててまで「万田知哉」という名前だけは絶対に忘れないのか。
廃屋で見つけた一冊の日記と、破り取られた『未来の自分への遺言』。
隠されていた痛切な真実を知った時、万田は絶対的な孤独の中にいた彼女の手を強く握りしめる。
「いいさ。空っぽなら、これから詰め込めばいい。俺がお前の明日からの記憶を、全部一緒に作ってやる」
記憶を代償に奇跡を紡ぐ少女と、彼女の明日になろうとした少年の、切なくも温かいボーイ・ミーツ・ガール。
――ただの高校生とただの少女の、新しい一日が始まる。