あらすじ
過労の果てに命を落とした佐野透が目を覚ますと、そこは焦熱地獄の管理棟だった。彼を迎えたのは、人事課の司命。そこでは亡者にも鬼にも等級ごとの「厚遇規程」があり、休憩時間や冷水、就寝用の畳まで細かく定められていた。佐野は地獄を管理する仕事に就くことになるが、配属先は最も実績の悪い釜茹で第三班。そこでは鬼たちが命懸けで働いているのに、薪の運搬距離やシフトの組み方が悪く、釜は常に火力不足に陥っていた。
現場を見回した佐野は、鬼たちが怠けているのではなく、無理な前提で働かされていることに気づく。薪置き場を釜の近くへ移し、休憩を三交代制に組み直すだけで労働は大きく改善し、火力も安定しはじめる。さらに彼は、査定基準の条文を読み直し、誰も気づかなかった「測定方法」の穴を見つける。焦熱地獄の査定は釜一基ごとの温度ではなく、六基合計の熱量で判定されるのだった。八百年分の帳簿を突き合わせると、班はすでに基準を大きく超えており、これまでの過剰労働は条文の読み違いによるものだと判明する。
一方で佐野には、生前の記憶が少しずつ失われていくという地獄の福利厚生が待っていた。最後に残る顔を抱えたまま働き続けることの重さを知りながら、彼は「忘れるための最上位待遇」を辞退する。やがて地獄には、亡者を釜から出すための新たな条件が設けられ、鬼たちの働き方も変わり始める。地獄を救ったのは革命ではなく、条文の正しい読み方と、休ませるという発想だった。