あらすじ
「昨日ね、孫が来てくれたの」
一人暮らしの高齢女性・柴崎フミは、嬉しそうにそう話した。
だが、訪問介護員の水瀬灯は知っている。
――この人に、孫はいない。
二十七歳の灯が持つのは、特別な推理力ではない。毎週同じ家を訪れ、同じ人の生活を見ているからこそ気づける「いつもとの違い」だった。
増えたスリッパ、消えた現金、火曜日だけ鳴る電話、説明のつかない痣、玄関に立つ見知らぬ若者。
利用者やその家族の周囲で起きる小さな謎を追ううち、灯の前には高校時代の同級生である刑事・真壁遼介、私立探偵・朝倉美緒、そして最初の事件で犯人を疑われた謎の男・神谷玲司が集まってくる。
やがて、ばらばらに見えていた出来事の背後に、高齢者を狙う犯罪の影が浮かび始める。
そして灯は知る。
十一年前に事故で亡くなった、訪問介護員だった母もまた、柴崎家を訪れていたことを。
母の遺した手帳には、たった一行。
「孫はいない。なのに孫が来ている」
他人の家だからこそ見える秘密。
信じた人だからこそ見えなくなる真実。
訪問介護の現場から始まる、連作社会派ミステリー。