あらすじ
王都を見下ろす丘の上に建つ、小さな魔法研究棟。
そこで暮らす十八歳の魔法使い・有紗は、ある日、街の路地裏で傷だらけの青年を見つける。
黒い服に身を包み、怪我をしてなお「ついてくるな」と他人を拒む青年――シャロウ。
放っておけなかった有紗は傷を治し、衰弱していた彼を研究棟へ連れ帰る。
「少し休むだけ」
そう言っていたはずのシャロウだったが、研究棟で食事を与えられ、客室を用意され、やがて有紗の護衛として行動を共にすることになる。
王宮で育ち、世間のことをあまり知らない有紗。
ひとりで生きることに慣れ、他人と距離を置いてきたシャロウ。
生きてきた場所も、考え方も、当たり前だと思っていることも違う二人は、研究者の紫音や研究棟を切り盛りするリネットたちに囲まれながら、少しずつ互いの日常へ入り込んでいく。
一方、王都では本来いるはずのない場所に魔獣が現れ始めていた。
外壁の内側へ侵入した魔獣、再び開かれた古い排水路、そして魔獣に残された不自然な痕跡。
調査を進めるうち、有紗の持つ特殊な魔法と、王宮が長く記録してきた彼女自身の秘密も、静かに物語へ絡み始める。
これは、世界を救う英雄の物語ではない。
自分の居場所を知らなかった者と、自分の道をまだ知らない魔法使いが、誰かと出会い、暮らし、選びながら、それぞれの「ここにいたい」を見つけていく物語。