あらすじ

二十年、王都の婚礼は、私の帳面の上で決まってまいりました。 この家は酒。この家は支払いが三月遅れます。この娘さんは、姑と同じ屋根では暮らせません。あの家の次男は、朝が一切だめでございます。 仲立ちの仕事は、縁を結ぶことではございません。結ばない理由を知っていることでございます。 私が伺いますのは、家格ではございません。三つだけです。 朝、いちばん先に起きるのはどなたか。その手が、いちばん長くしているお仕事は何か。お困りのとき、いちばん先に誰へおっしゃるか。 刻は違うほうがよろしゅうございます。手も違うほうが。頼り先だけは、同じでないと持ちません。 私はマルティーヌ。十八の年から、王都アンブロワで仲立ちを二十年務めました。 ですが、後見をお継ぎになった若い縁組頭さまは、こうおっしゃいました。 「陰口の帳面など要らん。釣り合いなど、家格を見れば分かる」 「ようございます。では、本日限りで」 私は規定どおり、一月前に予告し、引き継ぎを三度申し出て、三度お断りいただき、帳面を三部そろえて店を畳みました。役所へ一部、公証人へ一部、私の控えが一部でございます。 移りました先は、縁談が十年、一件もまとまっていない貧しい領でございます。 若い領主さまは、面接の席でこうおっしゃいました。 「お支払いできるのは、畑の実りぶんです。ですが、まとまらなかった縁のぶんも、お支払いします。あなたが断ってくださった縁こそ、お仕事ですから」 ――ようございます。ここを、私の店にいたしましょう。 一方、王都では。家格だけで組んだ縁が、順番に壊れております。 王都が無能なのではありません。あの方は有能で、壊れたあとの始末は誰よりお早い。ただ、壊れる前に断ることだけが、どうしてもできない。断る理由を、お読みになっていないからです。 ――ところで。 私の帳面には、一頁だけ、二十年、白いままの頁がございます。 私自身の釣書でございます。 他人さまの縁でしたら、いくらでも結んでまいりましたのに。自分の縁となりますと、断る理由しか思いつかないのでございます。

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小説を読もう2026/08/16
  • 現在の作品王都の縁談を二十年まとめてきた仲立ち、本日限りで店じまいいたします ~断る理由を書いた帳面はお渡ししましたが、お読みにならないようです~