あらすじ
客を招いた広間で、家令はわたくしを立たせて申しました。「書庫の本を勝手に持ち出した」。
否定はいたしません。ただ一つだけ伺いました。——書庫の出し入れを許す権を、あなたはいつからお持ちのおつもりでしたか。
鍵は先代が預けたまま、預け替えの書面が一度もございません。広間が黙りました。
北の壁は春に湿り、南の棚は冬に乾きます。雨の続いた年は革の背から先に外へ出し、人の集まる棚は後へ回す。虫干しの順を書いた紙は剥がされ、廊下の柱には冊数と人数が貼り出されました。「順など、番号どおりでよい」。左様でございますね。
では、鍵と配架の控えをお返しいたします。刷毛も、壊しも持ち出しもいたしません。
三月は何も起きません。番号どおりに戻せば棚は埋まります。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。
梅雨、北の棚から順に背が波打って、本が開かなくなりました。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。
自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの問いをそのままお返しするお話。