あらすじ

「混ぜるだけの仕事に寝かせは無駄だ」——新しい家令は、人の集まった朝の広間でそう申しました。十四年、この家の香を合わせてまいりました。 菫は寝かせが浅いと途中で消えます。忍冬は湿りの多い部屋では最初だけ強く出る。橙花は寒に入ってから合わせないと角が立つ。壁に留められるのは花の量だけで、その日の見込みは全部この頭の中にございました。 合わせの控えは剥がされ、廊下の柱には花の量と配合が貼り出されました。「香など、良い花を多く入れればよい」。左様でございますね。わたくしがいなくても、お館は回ります。 では、合わせの控えをお返しいたします。蒸しの器も量りも壊しも持ち出しもいたしません。 半年は何も起きません。棚にはわたくしが寝かせた壜がございます。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 冬、棚が空いた週の披露の晩、客の前の香が途中から立たなくなりました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。 自分の香部屋を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/16
  • 現在の作品用済みですか。では十四年ぶんの香の合わせの控えを置いて香部屋を出ます。冬の披露の晩、客の前で香が途中で切れます