あらすじ
煙の通り道は、きちんと決めておいたほうがよろしいのです。十三年、そう申しあげてまいりました。
伯爵家の煙道を見るのはわたくしでした。部屋ごとに通り道の曲がりが違い、曲がりで煤の溜まる速さが違います。雨の続いた週は北側から先に、客を招く前は客間を最後へ回す。壁に留められるのは今月の順だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。
けれど手当の話になるたび、家令はこう申します。「煙道は皆の場所だ。手当は後で」。十三年、後でと言われ続けております。
払う順を書いた紙は剥がされ、廊下の柱には部屋数と人数が貼り出されました。「煤など、上から落とせばよい」。左様でございますね。
では、払い順の控えをお返しいたします。刷毛も柄も、壊しも持ち出しもいたしません。
夏のあいだは何も起きません。火を焚かないのですから。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。
冬、雨の続いた週に火を入れると、客間だけが白く煙りました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。
自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。