あらすじ
建武三年、湊川。楠木正成は七百騎で万の軍に挑み、死んだ。
戦の後、葛城山の牧に返された軍馬を診た十二歳の鏑木蓮は、
一つの事実に行き当たる。——どの馬も、無傷だった。
足りなかったのは、兵でも策でもない。「速さ」だ。
蓮は和馬に大陸の血を入れた。速さは手に入った。
だが、その速さに和馬の蹄が耐えられない。
——ならば、蹄に鉄を打つ。
十年。幾多の失敗と別れの果てに、蓮は「速い馬」を手に入れた。
ある日、父を超えることだけを望む男が、牧を訪れる。
楠木正行。
「俺は戦のかたちそのものを、根底から変える」
痛点の発見。試作と失敗。最小限の実証。出資と裏切り。方針転換。
そして、たった一度の本番。
行き着く先は四條畷——史実が、負けると決めている戦場である。
馬に名を付けられない男と、偉大な父の名を背負わされた男。
二人が十二年を賭けた、ものづくりの歴史小説。