あらすじ
私はただ、ダンジョンの景色を描きたいだけなのだ。
1999年、世界各地に突如として現れた侵略者――《ダンジョン》。
かつて人類の存亡を賭けた戦場だったそこも、2026年の現在では、探索の様子を配信する《ライバー》たちが活躍する巨大なエンターテインメントになっていた。
そんな時代に、《野村クトゥルフ》という名前で活動する少女ライバーがひとり。
配信内容は、ダンジョンの中で何時間も黙々と絵を描くだけ。
同接四人。
コメントもほとんど流れない。
本人も、それで満足していた。
――危険度9の特異個体フェンリルを、一撃で叩き伏せるまでは。
しかも彼女が慌てた理由は、強敵が現れたからではない。
「消えるなぁ! 卑怯ものぉ!」
最高級の絵筆になるフェンリルの毛が、目の前で消滅し始めたからだった。
その姿は当然、他のライバーの配信にもばっちり映っていた。
翌朝。
登録者数、十万人。
トレンド――《令和の羅生門》。
さらに彼女には、もうひとつ秘密がある。
世界を敵に回す怪人たちから、なぜか昔からめちゃくちゃ気に入られているのだ。
有名になりたいわけじゃない。
世界を救いたいわけでもない。
世界の敵になりたいなんて、もっとない。
お願いだから、静かに絵を描かせてほしい。
これは、ただ絵を描きたいだけの少女が、本人の意思とは無関係に世界中から注目されていくダンジョン配信物語。