あらすじ
地球温暖化によって、真夏の外気温が五十度を超えるようになった近未来。
地下の冷却施設で暮らす百四十三人の住民に、今年も「選別の夏」が訪れる。シェルターを快適な温度に保てるのは、百二十人まで。残る者は〈排熱協力者〉として、冷房の止められた上階へ送られる。
管理組合長の榊冬一は、住民の健康、年齢、技能、貢献度を管理AI〈ミナモ〉に計算させ、「公平な制度」として二十三人を選んできた。
だが投票直前、疎遠になっていた娘の美奈が、五歳の息子を抱いて避難してくる。
二人を救えば、代わりに誰かが死ぬ。
榊は孫の席を確保するため、老教師・小田切の医療記録を歪める。住民たちもまた、生き残るために隣人を密告し、病人の薬を隠し、親族を特別枠へねじ込み始める。
やがて小田切は、隠されていた事実を知る。
室温を二十八度に上げ、私有電力と食料を全員で分け合えば、本当は誰も上階へ送らずに済むのだ。
それでも住民たちは、全員で不自由を引き受けるより、少数を犠牲にして快適に暮らす方を選ぶ。
人間の苦しみを理解するよう作られた〈ミナモ〉は、その決定が人間自身によるものだと告げる。しかし住民たちは、判断を機械へ任せたはずなのに、機械が自分たちの責任を指摘した瞬間、それを「欠陥」と呼び始める。
扉の向こうで、選ばれた人々が助けを求めている。
扉のこちら側では、泣きながら投票する人々がいる。
誰も自分を悪人だとは思っていない。
これは、AIが人類を支配する物語ではない。
生き残るためという言葉のもと、人間が自分で考える責任を手放し、残酷な決定さえ「公平」と呼べるようになっていく物語である。