あらすじ

「姉上の代わりに、損の出る古蔵を引き受けさせろ」 名代がそう申しました。母は答えました。「末なら大丈夫でしょう」。 蔵の棚は、段ごとに温みと湿りが違います。返す日も違います。柱に貼れるのは段の数だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。七年、そうしてまいりました。 返しの日を書いた札は抜かれ、納屋の柱には蔵と人の割り当てが貼り出されました。「蔵はひとつ増えるだけだ」。左様でございますね。 では、鍵をお返しいたします。棚も道具も壊しも持ち出しもいたしません。名代へは一礼を、母上にはお名前を呼んでから、ひとことだけ。 ——さようなら。 半年は何も起きません。わたくしが返しておいた棚がございますから。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 翌年の梅雨、返しの遅れた棚から順に皮が膨れ、下の段まで落ちました。誰も怒鳴りません。ただ秋の納めの注文が来なくなるだけでございます。 自分の蔵を持ったわたくしの前に、名代と母上が立った日のお話。

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小説を読もう2026/08/15
  • 現在の作品さようなら。身代わりを望んだ母上