あらすじ
「姉上の代わりに、損の出る古蔵を引き受けさせろ」
名代がそう申しました。母は答えました。「末なら大丈夫でしょう」。
蔵の棚は、段ごとに温みと湿りが違います。返す日も違います。柱に貼れるのは段の数だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。七年、そうしてまいりました。
返しの日を書いた札は抜かれ、納屋の柱には蔵と人の割り当てが貼り出されました。「蔵はひとつ増えるだけだ」。左様でございますね。
では、鍵をお返しいたします。棚も道具も壊しも持ち出しもいたしません。名代へは一礼を、母上にはお名前を呼んでから、ひとことだけ。
——さようなら。
半年は何も起きません。わたくしが返しておいた棚がございますから。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。
翌年の梅雨、返しの遅れた棚から順に皮が膨れ、下の段まで落ちました。誰も怒鳴りません。ただ秋の納めの注文が来なくなるだけでございます。
自分の蔵を持ったわたくしの前に、名代と母上が立った日のお話。