あらすじ
かつて、この世界では魔法は特別なものではなかった。
火を灯し、水を呼び、傷を癒やす。
魔法は人々の暮らしとともにあり、多くの者がその力を尊び、支え合いながら生きていた。
しかし、時代は変わる。
魔法を持たない者たちは、その力を恐れ始めた。
「魔法使いは危険だ。」「いつか私たちを支配する。」「そんな力は、この世界に必要ない。」
根拠のない噂と恐怖は、やがて憎しみへと変わっていく。
魔法使いたちは弾圧され、家を追われる者、捕らえられる者、そして命を落とす者まで現れた。
生き残るため、魔法使いたちは一つの決断を下す。
――魔法を捨てたふりをすること。
力を隠し、正体を偽り、普通の人間として生きる。
それから数十年。
世界から魔法は消えたと、人々は信じるようになった。
だが、それは間違いだった。
魔法は、まだ消えてはいない。
ただ、誰にも知られないように、息を潜めているだけだった。
◇ ◇ ◇
そして現在。
私の名前は、夜桜 時雨(よざくら しぐれ)。
中学二年生。
そして――魔法使いの血を受け継ぐ一族、最後の生き残り。
幼い頃から、家族には何度も言い聞かされてきた。
「絶対に人前で魔法を使ってはいけない。」
「誰にも、自分が魔法使いだと知られてはいけない。」
その言葉は、私の中で"約束"ではなく"生きるための掟"になっていた。
だから私は、学校でも街でも、自分の力を隠し続けている。
誰にも気づかれないように。
普通の中学生として。
もちろん、一番仲のいい親友である五十嵐 心菜(いがらし ここな)と氷室 琉夏(ひむろ るか)にも、この秘密は話していない。
……話せるはずがない。
もし知られれば、二人まで危険な目に遭うかもしれないから。
それでも私は願っていた。
この秘密を抱えたままでも、三人で笑い合う毎日が、ずっと続いてほしいと。