あらすじ
佐倉鈴音の頭の中は、だいたいいつも食べ物でいっぱいだ。
プリン。ゼリー。キャンディ。
美味しいものには興味がある。
でも、人にはあまり興味がない。
ましてや、誰かを好きになる気持ちなんて知らなかった。
そんな鈴音が通うお気に入りの店『Moment Fondant』。
そこで働く、不愛想で人付き合いの苦手なパティシエ・戸次昌磨。
最初はただ、
「美味しいゼリーを作る人」
だった。
けれど、いつからだろう。
菓子ではなく、作っている彼の姿を目で追うようになった。
長い指。
大きな手。
自分を見たときだけ、わずかに変わる表情。
見たい。
もっと知りたい。
そして、触れてみたい。
ある日、鈴音は考えるより先に、昌磨の手へ触れてしまう。
「……熱い」
顔を上げると、そこには今まで見たことのない彼の表情があった。
頬も耳も赤くして、自分を見つめている。
その顔を見た瞬間、鈴音の中に新しい好奇心が生まれた。
もっと見たい。
もう一度、触れたい。
一方の昌磨も、ずっと鈴音をただの常連客として見ていたはずだった。
かなり年下の彼女へ惹かれてはいけない。
自分から近づくべきではない。
そう思うのに、彼女から伸ばされる手を拒めない。
「触れて、いい?」
食べ物にしか強い興味を持たなかった無表情な女子大生と、恋愛に不器用な年上パティシエ。
触れるほど、もっと触れたくなる。
これはまだ『恋』を知らない女の子が、正体の分からない好奇心のまま、初めての熱へ近づいていく物語。