あらすじ

「巻くだけの仕事に手当は無駄だ」——新しい家令は、人の集まった朝の広間でそう申しました。十四年、屋敷中の時計を合わせてまいりました。 火を焚く広間の時計は進み、石の礼拝室は遅れます。雨の続いた週は油が重くなる。壁に留められるのは巻きの回数だけで、その日の見込みは全部この頭の中にございました。 合わせ表は剥がされ、廊下の柱には当番と回数が貼り出されました。「時計など、朝に巻けばよい」。左様でございますね。わたくしがいなくても、お館は回ります。 では、合わせ表をお返しいたします。鍵も油差しも壊しも持ち出しもいたしません。 夏は温みが揃いますので、ずれません。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 冬の披露の晩、大広間の鐘と食堂の時計と礼拝室が、四分ずつずれて鳴りました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。 自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/15
  • 現在の作品用済みですか。では時計の合わせ表を置きます。冬、鐘がずれます