あらすじ
「巻くだけの仕事に手当は無駄だ」——新しい家令は、人の集まった朝の広間でそう申しました。十四年、屋敷中の時計を合わせてまいりました。
火を焚く広間の時計は進み、石の礼拝室は遅れます。雨の続いた週は油が重くなる。壁に留められるのは巻きの回数だけで、その日の見込みは全部この頭の中にございました。
合わせ表は剥がされ、廊下の柱には当番と回数が貼り出されました。「時計など、朝に巻けばよい」。左様でございますね。わたくしがいなくても、お館は回ります。
では、合わせ表をお返しいたします。鍵も油差しも壊しも持ち出しもいたしません。
夏は温みが揃いますので、ずれません。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。
冬の披露の晩、大広間の鐘と食堂の時計と礼拝室が、四分ずつずれて鳴りました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。
自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。