あらすじ
建国記念の夜会。三百人の前で、王太子ルシアン殿下はわたくしにこう仰いました。
「アデライド・ヴェルネ。お前との婚約を破棄する。お前には心がない。書類しか見ていない」
そのとおりでございます。わたくしは八歳から、王妃になるためだけに育てられました。七か国語と、二十三の税制と、四百年分の条約史。心の使い方は、教科に含まれておりませんでした。
ですから、承知いたしましたと申し上げました。ひとつだけ添えて。
――婚約契約書の第七条をご確認ください。王家側の都合で婚約が解消された場合、南部三領の水利権は、直ちにヴェルネ公爵家へ完全復帰する。
王都リュミエールの水は、すべてわたくしの領地から流れております。
三日で井戸が濁り、七日で王宮の貯水槽が尽きました。
そして王都が渇きはじめた頃、南の国境から旗を上げた馬車が一台。降りてきたのは「氷の狼」と呼ばれる、隣国ガルデニアの軍務卿でした。懐には、八年前の停戦の朝に十歳のわたくしが地面へ腹ばいで書いた覚書を、一枚。
「あなたを、国ごと買いに来た」
心がないと言われた娘が、契約書一枚で王国を渇かせ、八年ごしの一枚に見つけられるまでの物語です。
※小説家になろう・アルファポリスにも同時掲載しています。