あらすじ
「お前との婚約を破棄する。記憶泥棒の魔女など、公爵家に相応しくない」
夜霧の船の甲板で、王太子ジェラルドにそう告げられた公爵令嬢ヴィオレッタ。男爵令嬢ミレイユの涙ながらの訴えによって、彼女は理不尽にも〈泡沫の海〉へと突き落とされた。
だが、ヴィオレッタは知っていた。記憶とは、盗めるものではないと。
前世は現代日本で遺品整理業を営み、人の想いを整理して届けることに誇りを持っていた彼女。過労で倒れ、誰にも看取られず死んだ女が、この世界に転生した者だった。
海に落ちた彼女を待っていたのは、死ではなく――『冷酷無比の海の災厄』と恐れられる古龍ネブロスとの出会い。彼が告げたのは、ヴィオレッタこそ数百年に一度生まれる正統な〈夜霧の渡し守〉であるという真実だった。
「魔女などではない。お前は運ぶ者だ。人が忘れたい記憶を、必要な港へとな」
公爵令嬢の身分を捨て、忘却の記憶を運ぶ渡し守となったヴィオレッタ。相棒は、三千年を生きながらどこか寂しがりで涙もろい古龍。そして、彼女を捨てた者たちには――きっちり『返品』を。
「もう、誰かのために黙って耐えるのはやめますわ」
忘れたい記憶を抱えた誰かのもとへ。返品も、配達も、丁寧が信条。前世で誰にも届けられなかった想いを胸に、彼女は自分自身の幸せを取り戻していく。
痛快な追放復讐と、心温まる記憶の物語。夜霧の船が、静かに泡沫の海を渡っていく――。