あらすじ

「あなたは身内も同然だから、後で」——手当の話になるたび、家令はそう申しました。十九年、後でと言われ続けております。 銀の曇る速さは、柄の刻印で変わります。海の風が入った週は柄物から先に、卵と塩の出る晩餐の前は匙を後に回す。壁に留められるのは今週の順だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。 順を書いた紙は剥がされ、廊下の柱には皿数と人数が貼り出されました。「順など、上から拭けばよい」。左様でございますね。わたくしがいなくても、お館は回ります。 では、磨き順の帳をお返しいたします。磨き粉も拭き布も壊しも持ち出しもいたしません。 半年は何も起きません。棚には磨き置きの銀がございます。「ほら、変わらん」と仰いました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 夏の終わり、棚が空いた週の晩餐で、客の前の銀が一斉に鈍りました。誰も怒鳴りません。ただ翌週から招きの返事が減るだけでございます。 自分の仕事場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った家令へ、あの一句をそのままお返しするお話。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/08/15
  • 現在の作品用済み扱いで手当を十九年後回しにされたので、磨き順の帳を置いて銀器室を出ます。夏の終わり、客前の銀が一斉に鈍ります