あらすじ
「釘なんぞ、誰が打っても同じだ」——新しい厩頭がそう申しました。そして厩の衆が、揃って「確かに」と頷きました。
十一年、いっしょに働いてきた衆でございます。
蹄鉄が保つかどうかは、鉄では決まりません。釘をどの穴へ打つかで決まります。外側へ体重が乗る馬は外の穴を一つ前へ。蹄の割れた馬は割れを避けて後ろへ。坂を下る馬は爪先寄りを浅く。壁に貼れるのは鉄の寸法と釘の本数だけで、その日の見立ては全部この頭の中にございました。
わたくしは否定いたしません。ええ、釘は、誰が打っても同じでございます。
では、金鎚は置いてまいります。鉄も火床も壊しも持ち出しもいたしません。やめるのは、穴の位置を変えることだけ。
夏の地面は乾いております。どこへ打っても外れません。「ほら、変わらない」と若い衆は申しました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。
秋、雨で坂がぬかるんだ狩りの日。足を落とした三頭は、春に「確かに」と頷いた三人の馬でございました。
誰もわたくしの名を出しません。厩の空気だけが変わります。三人はひとりずつ、別々の日に、わたくしの火床へ馬を引いてまいりました。わたくしは黙って蹄を持ち上げます。
お断りするのは、厩頭おひとりだけでございます。