あらすじ

23時40分、7号房、囚人不在。0時12分、同、房内に在り。  断崖の上に建つ終身刑の塔・ヴェルグ塔。夜番に配属された初日の夜、俺は自分の書いた2行を疑うことになった。囚人が窓の枠石を1つ抜いて崖を降り、32分後、自分でよじ登って帰ってきたのである。  名はアルヴィス・ダルグレン。3年前まで治水公と呼ばれ、独断で閘門を開いて貴族街を水に沈めた男。王都では、いまでも子どもを黙らせるのに名前が使われる。  「戻ってこられた理由を、伺っても」  「外の風が、思っていたより冷たかった」  翌日は廃棄物の樽。その次は鳩小屋の屋根。蝋で作った合鍵に、随員名簿への書き足し、裂いたシーツ、井戸から続く旧水路——閣下は毎晩ちがう手口で塔を出て、毎晩ちがう理由を言って帰ってくる。俺の仕事はそれを記録することだ。恋愛でも忠誠でもなく、理由の欄が埋まらない事案として。  「閣下。これ、日誌に書けないんですが」  逃げられるのに、この人はなぜ帰ってくるのか。答えは、俺がまだ読んでいない塔の規程の、第9条に書いてある。  脱獄48回、帰還48回。全年齢・純愛の脱獄コメディ、12話完結。

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カクヨム
カクヨム2026/08/14
  • 現在の作品牢番になったら、囚人の閣下が毎晩脱獄しては戻ってきます 〜本日も、日誌に「異状なし」と書けません〜