あらすじ
「値のつけられぬ目利きは、目利きではない」
二十一歳のリドは、その日、商会をクビになりました。
彼は品に触れると、何のためにある物かが分かります。分かるのは用途だけ。作った者も、いくらの物かも出ません。分かるほど値が言えない――商会には役立たずでした。
町へ帰ると、育ててくれた祖母が三日前に亡くなっていました。遺されたのは潰れかけの道具屋。埃をかぶった棚に道具が百二十三点。帳面は一冊もなく、遺されたのは棚の並び順だけでした。
最初の客は向かいの鍛冶屋のヴィカ。明日までに鎌を三十打つのに、十日前にタガネが折れてから一本も仕上がらない。同じ物を打とうとして、どうしても打てなかったと言います。
リドは折れたタガネに触れて、こう言いました。
「これはタガネじゃない。凍った湖の穴に挿す杭だ。打たれたほうが一瞬、冷える」
どこの国の道具かと訊かれても答えられません。国の名がついた物ではない気がしたのです。
その日の夕方、奥の開かないはずの戸が開きました。荷を背負った女の子が、笑いながら出てきます。
「ミトラー! 荷、持ってきたよー! けらけらけら!」
祖母は三日前に死にました、と告げると、その子は笑ったまま固まり、それから泣きました。
そして店じゅうの品がいっせいに浮き上がり、戸のほうへ帰ろうとしたのです。
*
リドが欲しいのは金でも店の再建でもありません。祖母が五十年かけて残した百二十三点を、全部、使う人の手に渡すこと。それだけです。