あらすじ
「あの女を毛選りから外れさせろ。羊毛は、買えば手に入ります」——秋、選り棚で束を数えていた背中側で、外から来た差配人が家令へそう話していました。身に覚えのない疑いでした。
伯爵家の毛選り場を見るのは十二年、タムシンの仕事でした。刈った羊毛を梳き分け、等級を判じ、二年寝かせてから織元へ納めます。冬を高い牧で越した羊の毛は縮れが細かいので梳きを二度。雨の多い年の毛は根が弱いので上等から外す。遅く刈った毛は先が焼けているので寝かせを三月延ばす。柱に貼れるのは手順と束数だけで、その日の読みは全部この頭の中にあります。
札は要らないと言われました。広間の柱には梳きの手順が貼り出されます。承知しました。羊毛は、買えば手に入ります。では、札を全部お出しします。
十二年ぶんの札を机へ積み、梳き板を拭いて棚へ戻し、いつもの位置へ揃えて選り場を出ます。
半年、何も起きません。棚には二年ぶんの選り分けた毛があります。けれど冬、それが尽きた朝から、同じ束数で梳いた毛の反物が、掛けても毛羽が起きず薄く寝たままになりました。織元の番頭が掌で撫でて首を振り、荷がそのまま返ります。誰も怒鳴りません。次の月から注文が来ないだけです。
自分の選り場の前へ立った差配人へ、あの一句をそのままお返しするお話。