あらすじ

「枡なんぞ、寸法どおりに削れば同じだ」——若旦那がそう申しましたので、わたくしは焼印を返すことにいたしました。 枡の狂いは寸法では決まりません。板がその後どちらへ動くかで決まります。冬に伐った板は春まで動く。木裏は反り、木表は縮む。雨の多い年の板は乾かしを一年延ばす。柱に貼れるのは一升の内法と削りの寸法だけで、その日の読みは全部この頭の中にございました。 十一年ぶんの働きは、入って半月の若い衆と同じ一行に並べられました。手控えの季節の欄は要らないと言われ、柱には内法が貼り出されました。左様でございますね。わたくしがいなくても、お店は回ります。 では、焼印は返してまいります。板も鉋も壊しも持ち出しもいたしません。やめるのは、板の行く先を読むことだけ。 削りたては寸法どおりで、水を張っても漏れません。「ほら、変わらない」と若い衆は申しました。変わらないことが、いちばん怖い時間でございます。 梅雨が明けて板が縮んだ頃、同じ寸法で削った枡が合わせ目から水を落としました。米屋の升取りで筋が立ちません。誰も怒鳴りません。次の月から、納めが返ってくるだけでございます。 自分の板置き場を持ったわたくしの前で「戻ってくれ」と仰った若旦那へ、あの一句をそのままお返しするお話。

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小説を読もう2026/08/14
  • 現在の作品「寸法どおりに削れば同じ」と言われ枡の焼印を返しました。夏に漏ります