あらすじ
伯爵令嬢エステルは、隣国生まれの母を持つというだけで「あちらの血」と囁かれて育った。
年明けの拝賀の席。宰相補レムケが、隣国へ内情を流した咎で彼女を告発する。証拠として積まれた文の束。婚約者のダミアンまでもが、父の隣で彼女を切り捨てた。
エステルは泣かず、ただ一言だけ願い出る。「その文を、この場で検分くださいませ」。封蝋に捺されていたのは、三年前の紋章改めで王家へ返上された、いまは亡き旧い紋——捺せる者は、返上の前に型を写した者だけである。
御前で崩れたのは、彼女ではなく告発の側だった。受領簿を抱えて駆けつけた文書院の院長ニクラスが、真っ先に彼女の隣に立つ。仕組んだ筆は、爵位ごと沈む。