あらすじ
「歌えぬ歌姫に、価値はない」
王国一の歌姫リリアーナは、婚約者であり大聖堂の楽長ユリウスを毒の霧から庇い、二度と歌えない身体になった。しかし彼女に返ってきたのは、喉の傷跡を「見苦しい」と嘲り、婚約を破棄する言葉だった。
そして、まるで打ち合わせていたかのように現れる「次代の歌姫」ソフィア。「お姉様の分まで歌います」――涙に濡れたその瞳の奥に、勝ち誇った氷の光を、リリアーナは見逃さなかった。
(なにこの子、怖い)
前世は日本の声楽家。声を守るため全てを捧げてきた彼女は、失った声を嘆くのではなく、静かに筆を執る。
『わかりました。もう二度と、あなたのためには歌いません』
聖歌の力の本質は、喉ではない。魔力を旋律に乗せる“設計”にある――前世の作曲理論と和声学を武器に、彼女は歌わずして聖魔法を奏でる、まったく新しい道を歩み始める。
そして彼女を支えるのは、強面で無骨な、ある大男。
喉の傷跡が疼くたび、リリアーナは思い出す。この傷は、誰かを庇えた自分の誇りの証なのだと。
声を失った歌姫が、本当に大切な旋律を見つける物語。かすれた声で紡ぐ「ありがとう」が、あなたの胸を打つ――。