あらすじ
前世の俺は、母に何ひとつ返せないまま死んだ……のだろう。
いつものようにベッドで眠りについたはずなのに、気づけば俺は、空から落ちていたのだ――それも、赤ん坊の姿で。
赤ん坊の体では何の抵抗もできない。
俺は死を覚悟して目を閉じていた。だが、そんな俺を抱き止めたのは、優しくて温かい水だった。
拾ってくれたのは、名の知れた元冒険者の夫婦だった。剣の道を極めた父と、指先ひとつで湯を沸かす、天才魔術師の母。
子に恵まれなかった二人は、空から降ってきた赤ん坊を運命だと言って笑った。
――ベル・パノヴァ。それが俺の、この世界の名前らしい。
教わったばかりの初級魔術ひとつで、家の石塀に穴が空いた。器だけは、どうしようもなく大きく生まれてしまったらしい。
……持て余した才能なんて、扱えなければただの厄介ごとだ。
それでも学ぶ理由はある。前世でできなかった『恩返し』を、この人たちにするためだ。
人を怖がる王女さま。魔族の血を引く女の子。それから、生まれてくる双子の妹。
これは、空から落ちてきた男が、家族と当たり前の幸せを手に入れていく物語。
そして――その全部を、もう一度空から落ちてきた何かに奪われる物語だ。