あらすじ
「セレスティア・ヴァレンハイト……貴様との婚約を、本日をもって破棄する!」
卒業夜会の大広間で、婚約者である第二王子ジークヴァルト・レイ・アルデシアから婚約破棄を叩きつけられた公爵令嬢セレスティア。
腕にぶら下がる男爵令嬢ミルフィを新たな婚約者とし、ひいては王妃に迎えると、彼は数百の貴族の前で高らかに宣言した。
七歳からの十一年、王妃教育を一度も欠かさなかった彼女は、しかし眉ひとつ動かさない。
「承知いたしましたわ。ですが……破棄の前に、清算だけはさせていただきたいのです」
彼女が腰から外したのは、角のすり切れた事務用の手帳だった。
欠席された三十二回の茶会。贈られたはずの首飾りの行方。彼女の筆跡で書かれた殿下名義の裁可書。そして、暖炉で焼かれた証言書。
一つ、また一つと読み上げられるたび、広間の空気が変わっていく。
やがて友人たちが席を立ち、生徒会の帳簿が開かれ、かつての従者が重い口を開き――。
婚約破棄ができて浮かれているジークヴァルトは、まだ知らない。
泣く代わりに書き続けられた三年分の記録が、どこまで積み上がっているのかを……。